ヒヤリハット報告は、単なる出来事の記録にとどまりません。
整理・数値化することで、職場の安全度を「見える化」し、改善の優先順位を決めるための管理ツールになります。この記事では、製造業の工場現場を対象に、ヒヤリハットをリスト化・数値化する具体的手順と活用法 を紹介します。
ヒヤリハット報告を「活用」して工場の安全を高める方法
ヒヤリハット報告は、職場に潜む危険の傾向を可視化する重要な情報です。
単発の報告では、同じミスが繰り返されやすく、経験が共有されません。
例えば「転倒に関するヒヤリ」が複数報告されれば、足元環境の改善が優先課題であることが明確になります。
整理されたデータは、工場の安全状態を評価し、対策の優先順位を決める指標として活用できます。
「書くだけ」ではモッタイナイ✏️
過去にヒヤリハット診断で訪問させていただいた企業では、「書く」ことだけが目的となっており、時間が経っても月間ヒヤリハット件数が右肩下がりになっていませんでした。
ヒヤリハット報告書を書く時間も人件費という費用です。その費用を効率的に利益に変換する仕組みを整えましょう。
リスト化と数値化で危険を見える化するメリット

感覚や経験だけで危険を判断するのは限界があります。
ヒヤリハットをリスト化・数値化することで、発生頻度や危険度を客観的に把握でき、改善の優先順位を戦略的に決定できます。
- リスト化・・・個別の報告書だけではバラバラな情報ですが、傾向や件数などがひと目でわかるようにするための横串的な効果があります。
- 数値化・・・リスト化したものの中で、注目度や優先度を見える化するために必要です。
現場パワーアップ!💡
ある工場では、毎週のヒヤリ件数を掲示板に張り出すだけで「今どの作業が危ないのか」が一目でわかり、班長が改善点をすぐ指示できるようになりました。
【実践手順】ヒヤリハットのリスト化・数値化
ヒヤリハットを整理・活用するには、記録項目を統一してデータを蓄積することがポイントです。
記録項目の例
- 発生日時
- 担当者・現場関係者
- 内容
- 被害金額(内訳・合計)
- 初動対応
- 原因
- 今後の具体的対策
Excelなどに入力してグラフ化すれば、どの作業や場所がリスクの集中ポイントかを一目で把握できます。
工場で実践!🔧
長田工業所の診断でも、Excelのシンプルな入力フォーマットを導入した工場では、部下が書きやすくなり、班長が後から「原因別に検索」できるようになりました。結果、改善のスピードが格段に上がりました。
企業によって重要視するところが違いますが、例えば「被害金額」の多い事案の改善を優先的に進めることで、効率よく全体的な改善が進んだという事例があります。
データを使って改善の優先順位を決める仕組み

ヒヤリハットをただリスト化するだけでは、改善の優先順位を決めにくいことがあります。
一生懸命進めていた改善が、単なる「見た目」や「清潔さ」の改善や、「取り組みやすい」ということだけが目的になっている取り組みだけで終わっており、より重要性の高い危険箇所の改修工事などの取り組みが後回しになっていたりと、本末転倒になってしまっていることもよくあります。
そこで有効なのが、「頻度 × 重大度」でリスクを点数化する方法 です。
点数化のステップ
- 発生頻度:同じ作業や場所で何件起きているか
- 重大度:危険レベルを1〜5点で評価
- 1点 = 軽微(ヒヤリだけ)
- 3点 = 一歩間違えば軽傷
- 5点 = 一歩間違えば重傷・労災につながる
👉 「発生頻度 × 重大度」でリスク点数を算出すれば、優先度が一目で分かります。
グラフ化の例
- 月別件数の棒グラフ:どの月にヒヤリが増えているかを確認できる
- 要因別の円グラフ:人・設備・環境・手順のどこにリスクが集中しているかが見える
- リスク点数ランキング表:点数上位3件を重点改善テーマにする
班長・工場長の一工夫👷
ある工場では、この点数をランキング表にして掲示板に張り出し、月次会議でチーム全員が確認する仕組みにしました。
結果として「どの作業が危ないか」が数字で共有でき、改善のスピードが格段に上がりました。
チーム全体での取り組みの納得感や、達成感を醸成すると、仕事のやりがいにも繋がりますね。
小さな一歩から始める|継続できる安全管理サイクル
大規模な取り組みは継続が難しいため、まずは小さな実践から始めることが大切です。
たとえば「1週間で発生したヒヤリを3件だけリスト化し、月末に集計して会議で共有する」といった小さな一歩でも、現状把握と改善の習慣をつくれます。
その際に、以下の3点を決めておくと、前に進みやすいです。
- 担当責任者(副担当者もつけると良い)
- 簡単な週間工程表
- その日の実行スケジュール
「言っただけ」では前述した通り、数時間後にはやることを忘れてしまいます。上記のことを工場のホワイトボードの片隅にでも書いておき、一定期間ごとに見直すことで、多忙な班長・工場長の負担も軽くなります。
小さく始めるコツ✨
実際に導入した工場では、この方法を半年続けただけで「報告が定着し、部下から自発的に改善提案が出るようになった」という成果がありました。
まとめ|班長・工場長がヒヤリハットを活かす視点
ヒヤリハットは、単なる報告ではなく「安全管理のデータベース」です。
- リスト化・数値化することで、危険の傾向を客観的に把握できる
- データを活用すれば、改善の優先順位を明確にできる
- 小さな一歩から始めれば、無理なく継続できる
👉 班長・工場長は、部下の報告を単なる記録で終わらせず、データとして活用する視点 を持つことが重要です。
まずは「書き方を正しく押さえる」ことから始め、そのうえで「データとして活用する」流れをつくれば、現場の安全度を継続的に高めることができます。
毎回ヒヤリハットが起こったときの報告書が「ちゃんと現場で改善されているか?」といった結果も、上長にとっての班長・工場長の評価項目になります。
数値化・見える化の次に、実際の現場で起きたヒヤリ・事故事例を学んでおくことも、改善活用には欠かせません。
▶あなたの現場は大丈夫?製造現場で発生するヒヤリ・事故3選と対策
よくある質問(FAQ)
- ヒヤリハットと労災報告の役割を、管理上どのように切り分けるべきですか?
-
労災報告は「発生後の法的義務」、ヒヤリハットは「未然防止の管理ツール」です。両者を区別しつつ、ヒヤリハットを蓄積・分析することで、労災ゼロに向けた管理体制が強化されます。
- 数値化する際、最低限押さえるべき管理指標や記録項目は何ですか?
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発生日時、作業工程、関与者、発生要因(人・設備・環境・手順)、暫定対応、恒久対策が基本です。これにより「どこにリスクが集中しているか」を管理指標として活用できます。

👉「 あなたの現場は大丈夫?製造現場で発生するヒヤリ・事故3選と対策」 作業現場では、事故につながる前の小さなヒヤリ・ハットが日常的に発生しています。「いつものこと」と見過ごすと、重大事故やトラブルの原因になりかねません。この記…
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