作業現場では、事故につながる前の小さなヒヤリ・ハットが日常的に発生しています。
「いつものこと」と見過ごすと、重大事故やトラブルの原因になりかねません。
この記事では、製造現場で実際に起きたヒヤリや事故の実例をもとに、管理者・リーダーが押さえておくべき視点や、明日から使える改善のヒントを解説します。
現場で繰り返されるヒヤリの特徴|管理者が押さえるべき視点
現場で発生するヒヤリには、単なる不注意だけではありません。
作業に慣れることで確認を省いたり、経験や暗黙の了解に頼ってしまうことが大きな要因です。
特にベテランの作業者は「自分は大丈夫」と思いがちでつい油断してしまいます。今までの経験から「この程度なら平気」と確認を飛ばしたりすることはありませんか?こうした油断が思わぬ事故につながることも少なくありません。だからこそ、管理者は現場での人の行動パターンを理解し、どこを優先的に教育・改善すべきかを見極めることが大切です。こうした特徴を把握することで、教育や改善の優先順位を判断するための視点が得られます。
ヒヤリハットのレベル統一を📣
長田工業所では、ヒヤリハットの手前の事例として、ちょっとした「つまづき」に敏感です。ヒヤリハット報告書に書くレベルではありませんが、当人やまわりの作業者が発見したらその場で
- 「なぜつまづいたのか」
- 「そこは通路上か」
- 「通路上なら、なぜつまづくモノが置いてあるのか」
- 「通路上でないなら、なぜそこを通らなければならなかったのか」
などの声掛けが発生します。つまづきの数が重大ヒヤリハットにつながると考えているからです。
製造現場で多発するヒヤリ・事故3選(実例付き)

作業に慣れてくると、つい油断してヒヤリとする場面に遭遇しやすくなります。
こうしたヒヤリは、3つのパターンに整理できます。
① 慣れ・過信による確認不足
💡作業に慣れることで、「自分は大丈夫」と思い、確認を省略しがちになる状況
事例
弊社では、溶接直後の切断材を触り、やけどをしたケースがありました。基本的には鉄の材料は「熱いものである」として革手袋で触ることがが大前提でした。「鉄は冷たいだろう」という思い込みで確認もせずに気軽に素手や軍手レベルで触ったことが原因です。
対策
・「鉄は熱いもの」であり、基本的には革手袋で触るというルールを明文化
・POPを作成し、作業者全員に周知する仕組みをつくる
👉POPは最初は効果を発揮しますが、だんだん慣れによりまわりの風景に溶け込んでしまいます。定期的な作り直し、スケジューリングが必要です。
②注意散漫・暗黙知による誤作業
💡 複数作業や属人的なやり方によって、ルールや安全確認を見落とす状況
事例
弊社では、「ちょい置き」がクセになっている従業員により、目線より上にあった鉄骨上に工具を一時的に仮置きして作業していたケースがありました。「あの工具はどこに置いただろう?」と探して見つかったことで発覚したので、実際にはヒヤリハットは発生していませんが、その工具がなんらかの衝撃で落下すれば、場所によっては大事故につながる可能性があります。
ば、どの作業や場所がリスクの集中ポイントかを一目で把握できます。
対策
・工具や資材の定位置を5Sで決め、仮置きの習慣をなくす
・高所作業の場合、腰袋(道具袋)に入れる工具の種類を決め、それ以外は持ち運ばない
・工具に落下防止のストラップを付けて使用する
👉これにより、工具の仮置きはほぼなくなり、落下リスクを大幅に減らせています
③過去の経験に基づく油断・見落とし
💡 「今まで大丈夫だった」が油断のサイン。環境変化や季節、設備の状態を確認しないことで事故につながる状況
事例
ある工場では、製造ラインの向こう側へ移動する際、回り道をするのではなくそのライン上を乗り越えて移動することが習慣化されており、作業員が普通に行っている移動方法だった。ある作業員が、いつも通り製造ラインを乗り越えようとしたが、足首がそのラインの間に挟まってしまい、そのラインから転げ落ちそうになったケースがあります。
対策
・自社の従業員では当たり前のことも、外部の目線で確認してもらうことで気づく
・ラインの乗り越えを禁止し回り込む、またはオーバーブリッジを設置する
👉 定期的な外部目線を取り入れることで、習慣化による当たり前を消し込みましょう。意識しなくても事故が起きない環境作りのための改造も必要です
管理者が持つべき判断基準|安全管理の優先順位は3つで決める

管理者は、現場でヒヤリを発見したときに「どこから改善するべきか」を判断する必要があります。つまり「重要度の判断」が求められます。その際は、3つの基準で優先順位を決めることが効果的です。
👉あらかじめ基準を決めておくことで、時間やコストがムダにならず、効果的に事故を防止することができます。
具体的な判断基準は次の3点です。
1.発生頻度が高いか(毎日のように繰り返されているか)
2.被害が大きい可能性があるか(一度のミスで重大事故につながる作業か)
3.他の作業者に波及するか(一人の行動が全体の安全に影響するか)
例えば「工具の仮置き」の場合、①発生頻度が高く、②落下時のけがのリスクが大きく、③周囲の作業者にも影響するため、最優先で改善すべき対象となります。加えて、100円均一で売っているようなストラップの購入で解決できる場合もあり、時間もかからず取り組みやすいですね。
👉 この3点で優先順位を決めることで、効率的に改善の優先順位を決められ、教育や現場改善をより効果的に進めることができます。
外部目線にもいろいろある👀
毎日同じ環境で作業を共にしている班長や管理者の方にとって、なにがヒヤリハットかがわかりにくくなることはよくあります。そういった場合は、普段現場に入ることの少ない上長や、総務系の事務担当者など、作業者とは違った目線で安全パトロールをしてもらうことも効果的です。現場の作業者とすれば、やりにくい部分もあるかと思いますが、作業者の命を守る目的を思い出して判断しましょう。
さらに、写真で現場を記録して外部の専門家に診断してもらう方法もあります。人はどうしても慣れによる「当たり前」に縛られてしまうため、写真のような客観的な情報をもとに見直すと、普段気づかない危険が“見える化”されます。また、「外部の安全診断企業のサービス」にパトロールしてもらうことも有効です。
部下教育に活かせる安全行動の伝え方
安全教育では、単に「注意しろ」と伝えるだけでは不十分で、納得感と再現性のある伝え方が必要です。作業者は「なぜ危険なのか」を理解し、具体的な行動に落とし込むことで初めて安全行動を習慣化できます。
1. 実際の事例を交えて説明する・・・危険をイメージしやすくなる
2. ヒヤリ体験を共有し、共感を得る・・・「自分も起こしそう」と実感できる
3. チェックリスト形式で行動に落とし込む・・・誰でも同じ基準で行動できるホワイトボードの片隅にでも書いておき、一定期間ごとに見直すことで、多忙な班長・工場長の負担も軽くなります。
👉このように「理解 → 共感 → 行動」へつながる伝え方を意識することで、部下の安全行動は定着し、事故防止につながります。
特に若手作業者が事故を起こしてしまう要因のひとつに、危険を具体的にイメージできず、「自分ごと」として認識していないことが挙げられます。経験が浅いため、目の前の作業でどのようなリスクが潜んでいるかを実感しにくく、注意が及ばないケースが少なくありません。
そのため、安全教育では、危険を具体的にイメージさせる事例紹介や体験の共有を通じて、若手にも「自分のこと」として理解させることが重要です。
「最近の若いものは・・・」の危険性⚡️
よく年配作業者が若手作業者のヒヤリハットに遭遇すると「最近の若いものは甘やかされて育ってきたから安全意識が低いんだ」と、その人の属人性や性格、育った環境のせいにしてお茶を濁して終わることがあります。その場合、必ず別の人も同じ状況下でヒヤリハットを起こす可能性があります。
育った環境がどうであろうと、どれだけ注意散漫な人であろうと、どんな人でもヒヤリハットを起こさない「仕組みを作ろう」と意識しましょう。
年配作業者にとっては足が十分上がらないことがありますよね。そんな方はつまづきヒヤリハットに注意です。「最近の年配の方は・・・」と逆に陰口を言われてしまわないようにしましょうね。「人を憎まず、仕組みを憎む」です。
明日から現場に導入できる安全アクション3選|教育と改善の両立
リーダーは、「すぐに実践できる小さなアクション」を積み重ねることで、現場に安全文化を根付かせることができます。日常の習慣に組み込むことで、作業者全員が自然に安全行動をとれる環境が生まれます。
具体的な3つの行動を紹介します。
1.KY(危険予知)を行う
目的:作業前に危険を意識させ、忘れやすいリスクを作業者全員で共有する
・始業前に「今日の作業で転倒・落下・挟まれはないか?」を声に出して確認
効果:作業者が日常的にリスクを意識し、事故防止の未然防止につながります
👉「声に出す」「書き出す」という作業をすることで、あいまいな状況を行動に変えることが重要です。
2.工具や資材の置き場・作業エリアを明示する
目的:注意散漫や暗黙知による誤作動を防ぐ
・工具の定位置を5Sで定める
・作業エリアをまずはテープ・パーテーションで区画
効果:属人的な作業を減らし、誰が作業しても同じ安全基準を守れます
👉「一目で正しい位置がわかる」ことで探す・迷うといったムダを減らし、ヒヤリにつながるリスクも大幅に減少します
3.週1回の「ヒヤリ共有ミーティング」を実施する
目的:実際のヒヤリ事例を共有し、理解→共感→行動へつなげる
・ミーティングで今週のヒヤリを共有し、改善策を出していく
効果:危険を「自分ごと化」として認識できるため、ひとりひとりの安全意識が高まります
👉ポイントは「小さいことでも次の行動を決める」ことです。共有だけで終わらせないのが、現場を変える力になります。
これらの3つは「習慣化」「可視化」「共有」という3つの観点で現場の安全意識を支える仕組みになっています。
まとめ
ヒヤリは「いつものこと」と見過ごせば、必ず大きな事故につながります。だからこそ、今日から行動を変えることが何より大切です。
まずは、
①毎日の作業前に5分だけ危険を確認する(KY)
②工具や資材の置き場をきちんと決める(5S)
③週に1回、ヒヤリを仲間と共有する(振り返り)
この3つを現場に取り入れてみてください。どれも特別な仕組みでは必要なく、明日からすぐに実践できます。
👉「自分の安全は自分で守る」そして「仲間の安全も守る」この意識を行動に移すことで、事故ゼロは確実に近づいていきます。
ただ、どれだけ教育や改善を重ねても、人の慣れや思い込みによる“盲点”は必ず残ることにも注意してください。
内部の努力を補うためには、外部の目線で現場をチェックする仕組みも欠かせません。写真を活用したオンライン診断のように「客観的に見える化」することで、はじめて気づけるリスクがあります。
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よくある質問(FAQ)
- 新人教育で強調すべき点は?
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確認の徹底と、わからないことは必ず聞く姿勢です。「確認してから動く」ことを習慣化させるのが事故防止の第一歩です。
- ヒヤリハット報告を現場で習慣化するには?
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管理者が率先して報告・共有の場を作ることです。「小さいことでも報告してよい」という風土を作らないと、現場は黙りがちになります。

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